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まーさん超訳『平家物語~敦盛最期~』その三

さて、いよいよ大詰めです。
熊谷直実の今後はいかに――。




『平家物語』巻第九「敦盛最期」その三




かなり長い時間がたって、直実は、そうしてばかりもいられないので、

鎧直垂(よろいびたたれ)をとって首を包もうとしたところ、錦の袋に入れた笛を、

若武者が腰に差していられるのを見つけた。

「ああ、かわいそうに――

今日の明け方、城の内で楽を奏でていたのは、この人々でいらっしゃったのだ・・・。

今、私の味方には、東国の軍勢が何万騎もあるだろう――けれども、戦さの陣に

笛を持っていく人は、まさかあるまい。

――身分の高い方は、やはり優雅なものだ・・・」

と言って、九郎御曹司・源義経(みなもとのよしつね)にお見せしたところ、

これを見る人で涙を流さぬ人はいなかった。


 
 後になって聞くと、この若武者は、修理大夫・平経盛(たいらのつねもり)の子息で

大夫敦盛といい、生年十七歳になっていられた。



その時から、熊谷の出家の志はますます強くなったのである。



例の笛は、敦盛の祖父・忠盛が笛の名手であって、鳥羽院から授けられたもの

ということであった。経盛が相伝(代々伝えられること)なさったのを、

息子敦盛が笛の名手であったので、持っていられたということである。



笛の名は「小枝(さえだ)」と申した(のちの「青葉の笛」)。



狂言綺語(文学)でも仏道に入る原因となる道理があるとはいいながら、

笛(音楽)のことが、とうとう直実の仏門の入る原因となったことは、

まことに感慨深いことである。






「青葉の笛」という小学唱歌にも歌われ、人々に広く知られた「敦盛最期」。
熊谷の父性愛と、笛を戦場にまで持っていった敦盛の風流心とが、
死者を悼む人々の心を強く打つ物語となっています。
(*『日本古典文学全集29・30 平家物語』脚注参照)

こののち熊谷直実は、法然のもと出家を遂げるのです。


皆さま、いかがでしたでしょうか――。
日本人の心に深く根付いた「あはれ」の精神。
「敦盛最期」を通じて、改めて感じ取っていただけなのではないかと思います。

まーさんもしばしこの余韻に浸りつつ、原文を今ひとたび、
読み返してみるつもりです。

能「敦盛」、文楽・歌舞伎「一谷嫩軍記」も久々に観てみたいと、
思う次第であります。



*参考文献『日本古典文学全集29・30 平家物語』(小学館)



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非公開コメント

「平家物語」です。

まーさん様

それでは一体、教育課程を離れて、どれほどの人が「平家物語」を嗜んでいるのでしょうか、日本文学には数え切れないほど数多くの優れた作品があります。もっともっと皆さんとの触れ合いがあれば「日本再考」の道標に成り得る気が致します。
まーさん様、どんどん「超訳」邁進していってください。

陰の陰から応援しています。


No title

まーさん超訳、どうもありがとうございました。
楽しんで拝読致しました!

敵を敬い、情を寄せるというのも、日本人の良いところの一つですね~

Re: 「平家物語」です。

ハゼドン様

「超訳」の応援、ありがとうございます!!
共感して下さる方がいらっしゃることは、こんなにも嬉しく、励みになるものなのですね。

小・中・高を通しての古典教育、ぜひとも生涯学習の観点から、「日本の古典を尊重し、自ら古典に親しむ姿勢」を培うものであってほしいと思います。

ブログをご覧になった皆さまが、日本古典に親しむきっかけになればと、今後も微力を尽くしてまいる所存です。

Re: No title

Ariane様

『平家物語』読んでいただき、ありがとうございました!

敵を敬い、情を寄せる・・・
そうですね、日本人特有の在り方が、ここに表れているように思います。

日本とは何か、日本人とは何か。
これからも「古典」を通して考えていきたいと思います。

No title

平家の人々の背景も含めて、もっと深く知りたくなりました。
こうやって古典に触れる機会を得られるなんて、
なんてしあわせなんでしょう!
まーさん、ありがとうございます!

Re: No title

くるみ様

こちらこそ、ワタクシの超訳『平家』を読んでいただき、ありがとうございます!!

平家について、さらに深く知りたくなったというお言葉、何にも増して嬉しく思います。
ワタクシも同じ気持ちでおります。
改めて『平家』を読み直してみると、その魅力は計り知れず、関連芸能も含めてさらに深く平家の世界に浸りたいという気持ちになりました。

いつまでも色あせない古典の魅力。
いや、逆ですね、色あせない魅力があるからこそ、古典として現代にまで受け継がれてきたのですね。

No title

こんばんは。
とても面白く読まさせていただきました。
直実の葛藤、戦さの非情さが重く心に残りました。
色々と考えさせられる深さがありますね。

また次の超訳、楽しみにしてます。(^^)

Re: No title

アヒルのとーさん様

『平家』超訳、読んでいただきありがとうございます!
直実の葛藤は、同じ息子を持つ身として、非常に身につまされます。

この世の波に翻弄されながら、それでも今の自分を生き抜いた源平時代の武将の在り方を通じて、現代のワタクシたちも、様々なことを思い、考えさせられるところです。

次回の「忠度都落ち」ワタクシのとても好きなお話です。
訳すのを楽しみにしています。
プロフィール

まーさん

Author:まーさん
息子と夫と私、考え方も行動もてんでバラバラな3人で暮らしています(笑)でも仲良しです。
音楽、映画、読書が好き。芸術鑑賞、外国語、旅行も好きです。ゆ~る・じゃぱんでは、日本大好きまーさんが暮らしのに漂う日本の香り・日本文化をゆる~く綴っていきます。

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